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1 風吹けば名無し

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「うわ、珍しい。何しにきたん?」。キャンプが終わって初めて顔を合わせた同い歳の記者を見て、絵に描いたような苦笑い。少しだけ頬を緩めながら隣を通り過ぎると、グラブを持ってグラウンドに消えていった。この日は2軍本隊は遠征に出ていたため、屋外での練習は午前中で終了。西純矢、及川雅貴ら18歳のルーキーたちが「お疲れさまです!」と関係者にあいさつしながら寮へ入っていった後に、ウエートルームから引き揚げてきた34歳は、足を止めた。
「ボチボチやるよ。昨年からの期間で一番、しっかり投げられている感じやし。痛みは完全には取れないけど、我慢しながら投げるよ」。ある意味“違和感”があった。普段からあまり感情を表に出すタイプではない。囲み取材でも口数は少なく、言葉から真意をつかむことが難しい選手。それでも、この時ばかりは前向きでポジティブな気持ちをわずかながらに感じたからだ。理由があるとすれば、数日前に登板したフリー打撃。打者相手に本格的な投球をしたのは、今春初めてのことだった。長いリハビリを経て、ようやく光が差し込んできていた。


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